はじまり(ナエトル)

 十歳になったその日、私と彼の人生がスタートした。
 十歳になるとポケモンと旅に出ることができるこの世界のシンオウ地方。私は五歳の頃からみずタイプのポッチャマを選ぶと決めていた。あの丸いフォルムに魅了されない人間はいない、そう思い続けていた。それなのに研究所で目を奪われたのは頭にちょこりと芽の生えたくさタイプのポケモンだった。つぶらな瞳が私を捉えて、少し汚い鳴き声を出す。その瞬間から私はナエトルの虜だった。ナエトルに「なえとる」と名前を付けたとき、ナナカマド博士は少し眉間に皺を寄せた。その理由を知ったのは「なえとる」がハヤシガメになった瞬間だった。
 なえとると沢山の景色を見たかった私はなえとるをモンスターボールにあまり入れなかった。しかし、十キロもあるなえとるを運ぶのは厳しく、道中休み休みを繰り返し、やっとたどり着いたクロガネシティでなえとるとポケモンバトルでコツコツ貯めたお小遣いを使って自転車を買った。なえとるを前カゴに乗せれば、それはそれは気に入った様で二人で旅を続けることへの不安は無くなった。自転車に乗せても体力のない私にはそこそこ辛い旅路で、三十分に一回は二人で草原に寝転がった。クロガネシティのジムにすら挑戦していない私はその先に進むことも出来ず、何度も何度も同じところを自転車で行き来した。それでも私となえとるは飽きもせず自転車を漕ぎ、たまに草原を駆け回って、星を眺めた。
 なえとるのレベルも上がって、手持ちのポケモンも増えた私はクロガネジムに挑戦することにした。正直とても怖かった。ジムリーダーが強いことなんて分かっているから、タイプ相性が良くたって、なえとるが瀕死になってしまわないか心配で挑戦することを躊躇っていた。それでも挑戦しようと思えたのは私となえとるとの間に確かな絆と信頼があったからだった。なえとるなら大丈夫、なえとるなら大丈夫と言い聞かせ、クロガネジムの前で息を飲んだ。
 なえとるは絶好調だった。イシツブテにもイワークにもズガイドスにも臆することはなく、かっこいい姿を見せてくれた。初のジム戦勝利になえとるを抱きしめて喜ぶ私に、いわジムのジムリーダー、ヒョウタさんは「これから先もっと強い人たちと戦うことになるよ」と言いながらわざマシンをくれた。
 私たちの行動範囲は広がった。これから先、もっと沢山の景色をなえとると見ていくんだろう。一つ目のバッチを手に入れてなえとると乗る自転車で新しい道を進んでいく。風がとても清々しく感じた。

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