いなくなったら(五条)

「私がいなくなったらどうする?」
「その話いまする?」
 ベッドの上、キスを繰り返した後にその質問を投げかけた。
「今聞きたいかも」
 彼は少し不満そうな表情をしてもう一度キスをする。
「どこまででも追いかけるよ、分かってたでしょ」
「ん、でも死んじゃったら追いかけられないよ」
「追いかけられるよ」
 彼にその気は無くなってしまったのか、彼は私の頭を自分の腕に乗せた。少し伸びた髪の毛を指先に巻き付けて遊んでいる。
「でも僕は君の彼氏だから、君が死んじゃうような世界は消さなきゃいけないね」
 彼は何でも見透かしたように話す。きっとただの窓の私には想像もつかないようなものを見てきたからだろう。冗談のように聞こえないその言葉も、最強と謳われる彼なら本当に出来てしまうのだろう。私の髪がはらりと落ち、彼の指が私の指に絡まった。何かあったのかと尋ねる彼の目はいつもと変わらず澄んでいて、綺麗で、まるで彼自身とは真逆のようだった。
「なあんにも。気になっただけ」
 彼の頬を撫でる。陶器のようにするするとした手触りは、彼を作り物のように思わせたが、その温かさは本物だった。
「悟くんは綺麗だね」
 恐ろしい呪霊を難なく祓ってしまうその異常な強さ、あまり優しいとは言えないその性格、粗雑な態度、彼が育ってきた環境。どれも美しいとは言えないのに、彼は美しかった。
「僕にはお前の方が綺麗に見えるよ」
 きっとそれは悟くんが悲しいからだよ。そうは言えず、唇を噛んだ。その唇を彼の指が撫で、もう一度唇が重なる。
「何でお前は僕をこんな気持ちにさせちゃうの?」
「こんな気持ちって、どんな?」
 苦しい、そう一言呟いて、彼は目をそらす。でも悟くんを苦しくさせるのは私だけじゃないよ。この言葉も飲み込んだ。
「ごめんね」
「謝るならこんな気持ちにさせないで。僕の前からいなくなるなんて考えないで」
 強く、抱きしめられる。身をよじることも出来ないほど強い力なのに、どこか弱々しさを感じた。
「お前がいなくなりたいほど、心の底から笑えないほど苦しい世界なら僕が全部壊してあげるから、だからお願い」
 私には、抱きしめ返すことしか出来なかった。

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