ぷかぷかと浮かぶしゃぼん玉が目の前でパチリと弾けた。飛沫が顔にあたる。その微かな飛沫を拭えば彼は目の前に姿を現した。
「シーザー」
彼はしゃぼん玉液なんて持っていないのに、いつもしゃぼん玉と共に現れる。
「何してるんだ?」
「んー、なにも。ただ面白いことないかなって」
「あったか?」
「あなたが現れたことね」
「そんなこと言って恥ずかしくないのか」
「あなただっていつも女の子に言うじゃない。わたしは本心だもの」
そう言うと彼はそっぽを向いてしまった。そうだ、と手をたたいて私はあるものを取り出した。
「シーザー、今暇?」
「まあ、忙しくはない」
「それならわたしの隣で暇をしていて」
頭にはてなマークを浮かべるような彼の隣で"あるもの"しゃぼん玉をつくった。ゆっくり、ゆっくり、静かに吹いて精一杯大きくした。しかしそのかいも虚しく、それは割れた。
「ヘタクソ。貸してみろ」
彼はそう言って私から吹き棒を取りあげた。
大きなしゃぼん玉をいくつもつくり上げる彼は、世界で一番しゃぼん玉が似合う男だと思う。それでもわたしは先程まで自分が使っていた吹き棒を使う彼が平然としているのが気に食わなかったし、自分のうるさい心臓がばかみたいで嫌だった。
0コメント