布団の中に自分以外の熱があることが妙に心地よかった。温かなそれに脚を絡めて近づく。睡眠の浅い彼は擦り寄るだけでその白いまつ毛でかたどられた目を開いた。
「どーしたの」
彼の大きな手が私の頭を撫で、耳をくすぐり、頬を撫でた。無言で彼の鍛えられた胸板に頭を預ければ、彼は私に布団をかけ直し、髪を優しく梳かしはじめた。
「任務いかないで」
「今日は休みだよ、急にどうしたの」
小さく呟いたワガママに彼は優しい声で返す。
「悟がいなくなる夢みた」
「僕最強なのに?」
「最強さんでも、死ぬ時はしんじゃうんだよ」
そっか、と私のことを否定せず、彼は手をとめなかった。その優しさと温かさに溶けて無くなってしまいそうだと思った。目を閉じれば彼の心臓の音が聞こえる。彼は今ここで生きていて、そして彼の時間を私が今独り占めしている。その事実が幸せで、それ以上は望まなかった。
「今日はデートでもしようか」
「任務で疲れてるでしょ」
「疲れてないよ」
「でもお出かけしたくない。悟と一緒にダラダラしたい」
「そうしよっか」
彼の好きなタイプは「いい子」らしい。きっとわがままばかりの私はいつか呆れられてしまうのだろう。彼が私をいい子と呼ぶ度に安心するけれど、本当の私を見られた時の不安も大きくなる。それでも悟がいなくなるのは嫌だった。彼の背中に回していた手に力を込めて、好き、と一言呟いた。
「僕は愛してるよ」
顎をすくわれ、鼻頭で軽いリップ音が鳴る。彼の体温に溶かされるような、そんな朝が幸せだった。
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